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イギリスのマーマレードの世界
~イギリス人が昔から愛してきたマーマレード~

時にはお気に入りのおいしいマーマレードを食べながら、マーマレードの歴史に思いを馳せるのも楽しいものです。

イギリスのホテルの朝食で出される容器に入ったマーマレード
イギリス・レイコックにあるホテルの朝食のマーマレード

マーマレードの言葉はマルメロから

マルメロ(クインス)

マーマレードは、ポルトガル語のマルメロのジャムを意味する「マルメラーダ(Marmelada)」からきた言葉です。
マルメロ、イギリスではクインスと呼ばれます。日本のカリンとよく似た、とても香りがよい果物。しかしとても硬いため、生では食べる事はできませんが、ペクチンが多いので、砂糖を加えて煮るとジャムやジェリーに、もっと煮詰めるとナイフで薄く切って食べるほど硬いペーストになります。
マルメロとハチミツを一緒に壺に入れ漬けたもの、これはギリシャ名ではメロメリ(リンゴハチミツの意味)となり、ラテン語のメロメリやメリメラになりました。ポルトガル語では、マルメロを指すようになり、マルメロを煮て砂糖をいれたジャム状のものをマルメラーダと呼び、これがマーマレードの言葉の元になったといわれます。

テューダー朝の砂糖菓子

イギリス・テューダー朝では、上流階級の人々はデザートの1つとして、果物の砂糖漬けを食べていました。その当時、サトウキビで作られる砂糖はまだ貴重なもの、スペインやポルトガルでは、マルメロやオレンジで砂糖漬けを作り、イギリスなどへ輸出をしていました。
この果物の砂糖漬けを「サケット」といいます。果物を砂糖のシロップの中に入れ、繰り返し加熱して作るもので、ドライタイプやシロップ漬けのものなどがありました。ねばねばしているサケットを食べるため、ふた股のフォークがついた「サケットスプーン(サケットフォーク)」というものも作られています。
また、マルメロを煮て砂糖を加え、硬めのペーストにして、ローズウォーターやムスクなどの香りをつけ小さな木箱に入れたものも、イギリスへ運ばれました。
それが少しずつ変化して今のマーマレードに近いものになったといわれています。

オレンジは憧れの果物

バラマーケットに並ぶオレンジ

今でこそイギリスには、世界中からたくさんの柑橘類が集まっていますが、もともとオレンジは、インド北部や中国の雲南省が原産、そしてアラブ人を通じてヨーロッパに伝わりました。ヨーロッパへは、酸っぱいサワーオレンジが最初に伝わり、その後、当時チャイナオレンジ・ポルトガルオレンジと呼ばれていた甘いオレンジが入ってきます。
17世紀の中頃、ロンドンではオレンジが販売されて、庶民も食べていたようですが、地方へは輸送が難しく腐ってしまうので、ロンドン以外では入手が難しかったようです。
冬が寒い北ヨーロッパ、しかし憧れの柑橘類を育てたいという思いから、富裕の上流階級ではステータスシンボルとして、オレンジを栽培する温室「オランジェリー」を作りました。

オレンジで作っても、チェリーで作ってもマーマレードと呼んでいた

『Marmalade Recipes from the 17th Century』
The Dalemain Series of Books & booklets by Frances Wilkins & published by Forest Press

イギリスには、17世紀中頃のマーマレードのレシピが残っています。古いレシピの1つとして、1677年頃に書かれたエリザ・チェムリーのレシピには、オレンジのマルムレットのレシピがあり、チェシャー州の公文書館に保存されています。

またダルメインにも、古いマーマレードのレシピが保管されており、その資料は『Marmalade Recipes from the 17th Century 』の冊子で見る事ができます。そこには、エリザベス・レインボーやエリザベス・トーマスが書いたオレンジのマーマレードの作り方が載っています。
それは、オレンジの皮を3~4日水に漬けて苦みを抜き、砂糖と一緒に鍋で沸騰させて作る、今のマーマレードの作り方に近いものです。オレンジにリンゴを加えたマーマレードのレシピもあります。
この冊子には、マルメロ(クインス)やアプリコットやチェリーのジャムと思われるレシピもありますが、マルメロマーマレードやチェリーマーマレードと書いてあります。
その当時は、現在のようにジャム、マーマレードと区別をせずに、マーマレードという言葉を使っていたのではないでしょうか。

スコットランドのダンディーマーマレードが有名な訳

いろいろなマーマレードのジャー

イギリスのアンティークショップに行くと、時々見かけるのが、マーマレードのジャー。
中でも、よく目にするのが「ジェームズ・キーラー&サンズのダンディーマーマレード」のジャーでしょう。

マーマレードを語るには必ずといっていいほど登場するダンディーマーマレード。
スコットランドの港町ダンディーで1760年代に商店を営んでいたキーラー氏は、嵐を避けて避難していたスペインの船から積み荷のオレンジを安く仕入れました。しかし、そのオレンジは苦くて酸っぱい、生では食べられないセヴィルオレンジ。そこで苦肉の策で、母親(妻の説もあり)のジャネットがこのオレンジに砂糖を加えてマーマレードにして販売したら大人気商品になったという話です。
ただし、17世紀には既にマーマレードのレシピがあり、そして18世紀初めには、セヴィルオレンジのマーマレードのレシピも存在することから、ジャネットがセヴィルオレンジで初めてマーマレードを作ったわけではありません。彼女のマーマレードは、細かくカットされたオレンジの果皮が入ったタイプで、これは彼女の発明ではないにしても、さぞかしおいしいマーマレードだったので人気が出たのでしょう。
ジェームズ・キーラーのジェームズとは、ジャネットの息子、または夫の名前だと諸説がありますが、1797年に「ジェームズ・キーラー」の名前で工場を作り、その後1857年に「ジェームズ・キーラー&サン」と社名を変更します。
家族経営から大きな企業へ発展させたこと、これが、ダンディーマーマレードが有名になった理由です。

1870年にイギリスの砂糖税が廃止され、砂糖の価格が下がります。そして19世紀末から20世紀初めにはイギリスのいろいろなメーカーがマーマレードを作り販売します。
1874年オックスフォードでフランク・クーパーの妻サラ・ジェーンが作り販売した「フランク・クーパー」の黒い色のマーマレード。ダンディーマーマレードとは色も対照的ですが、これも人気商品になりました。
その他、ロバートソン社のファインカット・ゴールデンシュレッド、ウィルキンソン&サンズのチップトリーのマーマレードなど、今でも私達に馴染みのある会社の名前がでてきます。
そして19世紀の末になると、マーマレードは一般庶民の朝食には欠かせない食べものになりました。

ミュージアムに展示されていたマーマレードジャー

そしてダルメインのマーマレードアワード

EnglishKitchen(R) のマーマレード

そんな歴史のあるマーマレード、毎年イギリスのカンブリア地方のダルメインでは、世界マーマレードアワードが開催されています。

先日、そのマーマレードアワードのうち、アーティザン(プロ)部門が発表され、今年もEnglishKitchen(R)のマーマレードが7年連続して金賞を受賞しました。
同じように作っても、作り手によってなぜかその味わいが異なるのがマーマレードのおもしろさ。
私が作るマーマレードは、もし柑橘類が気持ちを持っているのであれば、マーマレードになってよかったと喜びを感じるような、そんな味わいのマーマレードを目指しています。

【参考資料】

『オレンジの歴史』クラリッサ・ハイマン著 大間知知子訳 原書房
『柑橘類と文明』ヘレナ・アトレー著 三木直子訳 築地書館 
『柑橘類の文化誌』ピエール・ラスロー著 寺町朋子訳 一灯舎
『ジャム、ゼリー、マーマレードの歴史』サラ・B・フッド著 内田智穂子訳 原書房
マーマレードの歴史 History of Marmalade(Dalemain Mason & Historic Gardens)

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ぜひお試しください。

【2022年ゴールド受賞】
•グレープフルーツ&レモン&橙
•ヒメレモン
•柚子&梅with山椒
•ユズ&土佐ベルガモット ※5月中旬以降の販売開始予定

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