英国レディの階級指標
アフタヌーンティーは「英国流の茶道」、装いも大切なマナーのひとつです。
フォーマルなパーティでは男性のドレスコードに準じて女性のドレスが決まりますが、
女性が主役のティーパーティの場合は、どのような装いがエレガントなのでしょうか。
アフタヌーンティーが発祥したヴィクトリア時代をのぞいてみましょう。
アンナ・マリアがアフタヌーンティーを考案した初期の頃には、厳しいマナーなどはありませんでした。ヴィクトリア時代中期になり、階級を超えてアフタヌーンティーが広まりをみせると、階級ごとに暗黙のルールが決められるようになっていきました。
上流階級のティーセレモニーとよばれるフォーマルなお茶会には、ドレスコードがありました。貴婦人がたは、インビテーションカードを受け取ると、レディの<3種の神器>ともいえるマストアイテム<帽子・手袋・パラソル>を身に着け、馬車で館を訪ねました。
帽子や手袋は階級指標ですので、外出の際には必ず身につけ、室内でもはずすことはなく、時代やクラスによっては素手でティーカップを持つなんて恥ずべきこと…、という風潮さえあったといいます。
紅茶はまだしも、サンドイッチやお菓子はどうしていたのかしら…?文献を調べてみると、手袋をつけたまま食べることもあったようで、「手で摘まみやすく手袋を汚さないお菓子が好まれます」と紹介している雑誌もあったほどです。確かに、初期の頃のアフタヌーンティーにはスコーンも登場せず、サンドイッチやティービスケット、プチフルールが並んでいたので、手袋を付け替えなくても大丈夫だったのかもしれませんが、今の時代の感覚からすると衛生面も気になるところですよね。
ヴィクトリア時代のトップモード ティーガウン
その後、アフタヌーンティーの流行に伴い、<ティーガウン>というお茶会専用のドレスが
誕生しました。これは、当時の女性ファッション業界にとっては大きな変革でした。
アンナ・マリアがアフタヌーンティーを考案するきっかけともなった、あのウエストをぎゅうぎゅう締めつけるコルセットは、徐々に排除されるようになり、紅茶やお菓子を心ゆくまで愉しめるようにと、身体を締めつけないティーガウンが大流行。ドレスの素材も、重く固い生地から、柔らかなシルクやシフォンに変化し、贅沢なレースやフリルが施された女性らしく優美なデザインが次々と誕生しました。
コルセットから開放された女性たちは、心身ともに自由への道を歩みはじめます。
19世紀後半になると日本趣味ジャポニズム旋風が沸き起こり、着物風のティーガウンも流行しました。
The New Womanと呼ばれた敏感な女性たちは、ファッション誌を眺め、最先端のモードを取り入れながら、ドレスをオーダーすることも楽しみのひとつでした。
21世紀の現在、紳士・淑女の国といわれるイギリスでもカジュアル化傾向にあります。
アフタヌーンティーの場では、男女ともに特に指定はなく、「TPOにあわせてご自由に」というところがほとんどです。
Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)に応じた服装、だからこそ品性が問われるシーンでもあります。
フォーマルなティーセレモニーの場合にはインビテーションカードにドレスコードが記載されていることもあります。
前回、バッキンガム宮殿でのガーデンティーパーティのお話の中でもドレスコードについて触れましたが、日本の女性にとっては和装もフォーマルウェアとなりますので、着物でアフタヌーンティーというのも粋な装いになります。
ホテルでのアフタヌーンティーの場合は、TPOにあわせて選びますが、やはり格式ある
ホテルの場合は、普段よりもワンランクアップした装いがスマート、男性はダークスーツ、女性もそれに準じたスーツやワンピースをベーシックとしてアレンジしてみてください。
洋服に気を配るかたは多いのですが、品格を左右するのが足元です。日常の中でも靴を履いて生活するイギリスでは、足元は非常に重要視され、人を見る時にもまず目がいきます。
日々、酷使する靴にまで気を配り、手入れを行き届かせることができるか…人間性まで表すアイテムともされています。
女性の場合はヒールのあるパンプスを選び、肌色に近い薄手のストッキングを着用すると
エレガントです。靴を脱ぐ習慣のない英国でも素足は控えるのがマナー。茶道でも茶室に入る際には白靴下を持参しますが、清潔な靴下に履き替えることで、お招きいただいた相手への敬意を表すとともに、日常の雑念などを脱ぎ捨てるという意味があります。
ドレスコード違反? ロンドンでの失敗談
このドレスコードと靴に関しては、私自身ロンドンで苦い経験をしたことがあります。
冬に旅行で訪れた際に、ホテルリッツのドローイングルームをドア越しにのぞくとガラガラ。もしかしたら、予約なしでもアフタヌーンティーを楽しめるかしら…と思い、
エントランスに向かうと、ドアマンにやんわりと足止めされ、脇のほうへとエスコート。
「マダム、本日はどのようなご用件でいらっしゃいますか?」
と聞かれ、アフタヌーンティーのお席に余裕があればと伝えたところ、
「大変申し訳ございませんマダム、あいにく本日は満席でして…、またの機会にいらしてください」
丁寧過ぎる言葉で「お断り」されたのです。
その時の服装といえば、セミフォーマルなコートと靴。ロンドンでは珍しく雪予報が出ていたこともあり、いわゆる<お洒落ウォーキングシューズ>だったのですが、リッツの扉は
重く閉ざされた?わけです。
そんなエピソードトークを交えながら、「装いの仕上げは足元にあり」と実体験をもとに、
レッスンでも靴の大切さを語っています。
近年の#KuToo運動に象徴されるように、靴に対する考え方にも変化がありますので、
時代とともにドレスコードという概念も変わるのが当然と思う一方で、リッツだけは古き良き英国の伝統を守りぬいてほしい…という複雑な思いも感じたりもします。
ドレスコードは同じ時間や空間をご一緒するかたへの敬意をしめすもので、ホスピタリティのひとつといわれています。思い出に残るアフタヌーンティーの時間を作り上げてみてくださいね。