イギリスで感動したミルクティーを、日本で再現できない訳
「イギリスで飲んだミルクティーのおいしさが忘れられない!」
一度でもイギリスを訪問したことがある方が、必ずおっしゃることです。
それほど、現地で飲むミルクティーのおいしさは、濃厚で甘みがあって味わい豊か。忘れられない記憶の一つとして脳裏に刻まれます。
帰国後は、”日本でも現地の味わいをもう一度……”と期待しながら、イギリスで買った思い出の紅茶を、自宅のキッチンで淹れてみます。アツアツの紅茶に牛乳をたっぷり注いで、”さぁいよいよ再会の時♪”と心弾ませるのに、なぜか日本で飲むミルクティーは、そこまで感動的ではない。どこか少しあっさりしていて濃厚さに欠け、あの記憶の風味とはなぜか異なるのです。
多くの人が経験する現地のミルクティーとのギャップ。これは一体どこから生まれるのでしょうか。
その答えは、水の質が違うからです。イギリスは日本と比べて硬水の地域が多いためです。
水の硬度は、水に含まれるマグネシウムとカルシウムの量で決まります。
スコットランドなどのように軟水の地域もあるので、イギリス全土とはいえないものの、例えばロンドンの水道水は硬度が200を超える硬水で、石灰分も多く含まれます。日本の場合、50ぐらいの軟水地域が多いことを考えると、淹れる紅茶の味わいが異なっても何の不思議もありません。
硬水で紅茶を淹れるとどうなるか?
実験をしてみましょう。身近に手に入れられるミネラルウォーターで硬度が200以上ある水というと、フランスのエヴィアンで、硬度は302です。
この、独特のミネラル感があるエヴィアンで紅茶を淹れると、どうなると思いますか?
(硬度も違えば水道水でもないので、単純に比較していいのかという問題はあるものの、あくまでも日本でできる実験の一つとしてご了承ください。)
普段飲む紅茶より渋みはほぼ出ないものの、香りは弱く、色は黒っぽく、表面には”スカム”(=scum 液体の表面に浮く膜のようなもの)が浮くことがあり、ストレートティーですと、正直見た目からしておいしそうではありません。
ところが、ここに牛乳を入れてみると。
赤黒い色は、濃いキャラベルブラウンへ。渋みがない分牛乳の旨味が引き立ち、むしろ甘みを感じます。香りは穏やかで、繊細さには欠けるものの、全体的にはとても濃厚で甘み、旨味に富んだミルクティーになるのです!
なぜイギリスがミルクティーの国なのか。その理由の一つがこの実験からも分かるのではないでしょうか。
日本で濃厚リッチなミルクティーを淹れる方法
では、日本の水を使って、イギリスのような濃厚なミルクティーを淹れることは不可能なのかというと、そんなことはありません。水質が違うので完全に同じだとは言えませんが、淹れ方をほんのちょっぴり一工夫するだけで叶います。過去の紅茶教室でも、イギリスで暮らした経験がおありの方にも太鼓判を頂いていますので、これまでイギリスのミルクティーを再現できなかった方にもご納得いただけるのではないかと思います。ポイントは、使う茶葉の量です。
さっそくご紹介いたしましょう!
◆ミルクティーの淹れ方(カップ2杯分)◆
≪用意するもの≫
・ ティーポット(2つ)
・ ティーキャディースプーン(ティースプーン、料理用小さじで代用可)
・ 茶こし
・ タイマー、砂時計など、時間の計れるもの
・ アッサムなどお好みの紅茶(リーフタイプのもの)
・牛乳(低温殺菌牛乳がおすすめ)
≪淹れ方≫
1. 蛇口からくみたての水をぐらぐらとコイン大の気泡がでるまで沸騰させる。
2. 温めたポットにスプーン山盛り1杯(およそ2.5g)×3の茶葉を入れておく。
3. 300ccの熱湯を注ぎ、その茶葉に合った時間まで蒸らす。カップを十分に温めておく。
4. 時間になったら、温めたもう一つのポットに、3の紅茶を茶漉しなどで最後の一滴までこし、あらかじめ温めておいたカップに注ぎ分ける。
5. 常温の牛乳を、カップ1杯につき30ccほど入れる。
<ポイント1> 茶葉の量を通常の1.5倍に。多めに使うのがポイント
こうすることで、牛乳のコクに負けない濃厚な紅茶を淹れられます。上記の淹れ方はカップ2杯分。ストレートティーならティースプーン2杯のところを、3杯使って1.5倍にしています。
<ポイント2> 牛乳は常温で
紅茶を冷まさないようにするために、牛乳は冷蔵庫から出して常温に戻しておきます。その時間がない場合は、お湯でよく温めたミルクピッチャーに注いで使うなど、温度を上げる工夫をします。ただし、牛乳を温めるのは、牛乳臭さが出てしまうためおすすめしません。
*イギリスでは、低温殺菌牛乳(Low Temperature Pasteurized Milk)が主流です。(日本は超高温殺菌が主流。)手に入るようでしたら、低温殺菌牛乳でお試しください。
<ポイント3> カップもよく温める
常温の牛乳を使うため、どうしても温度が下がってしまいます。少しでも熱い状態を保てるように、カップは十分温めておきましょう。
イギリス『紅茶が先か、ミルクが先か』論争の結末
18世紀後半には盛んに飲まれていたというミルクティー。イギリスではその頃から、こんな論争がありました。
『紅茶が先か、ミルクが先か。』
語る人それぞれの主張があり、長く結論を見ることのなかったテーマでしたが、2003年6月24日、『英国王立化学協会』がついにその結論を出しました。
それによりますと、『熱い紅茶の中にミルクを注ぐとタンパク質が変質して風味を害しやすいことが化学分析で判明し、冷たいミルクをまずカップに入れてからお茶を注ぐのが好ましいと結論づけた。』そうです。
“タンパク質の変質”とはいわゆる熱変性のことで、牛乳を熱すると膜ができますが、これもタンパク質の変性によるものです。熱い紅茶に少量の牛乳が入るとすぐに変性しやすいのに対して、牛乳が先だと、熱い紅茶が入ってきてもすぐに温度が下がり、変性が起こりにくいからという訳です。
確かに、飲み比べてみると、紅茶が先の方はやや硬い味わいに。牛乳を先に入れた方は口当たりがよく、牛乳の旨味がそのままストレートに感じられます。
ミルクを先に入れるのを”ミルク・イン・ファースト”、後から入れるのを”ミルク・イン・アフター”といいます。
長年の論争に科学的な結論は出ましたが、それでも各人のお好みがあるというもの。
「私は紅茶が先!」
「私はミルクが先!」
「ま、どっちでもいいんじゃない?美味しければ!?」
意見はそれぞれ。紅茶は嗜好品。自分が美味しいと思う飲み方がベストです。あなたはどちらがお好みですか?
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