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憧れのリッツでお茶を! ホテルアフタヌーンティー誕生秘話

ホテルアフタヌーンティーの始まり

ヴィクトリア時代、一人の貴婦人の空腹から、貴族の館でひっそりと始められたアフタヌーンティー。
その優雅な習慣は、特権階級を中心とした一部のソサエティーの中で催されるものでした。
17世紀、イギリスにお茶が渡ってきた当初から、「お茶会」というのは王侯貴族たちだけに許された特別な嗜みだったのです。

19世紀後半になると、ヴィクトリア女王が茶会を王室主催の行事にも取り入れるようになったことや、
お茶会に必要な「紅茶・陶磁器・銀器」が手に入りやすくなったことで、
それまで閉ざされていた貴族の秘密のお茶会<アフタヌーンティー>が階級を越えて広まっていきました。

その憧れのスタイルを再現し、取り入れたのがロンドンのホテルです。
豪華な邸宅や何人もの使用人に代わり、ホテルに足を運べば、美しい調度品に囲まれながら、給仕人からティーサービスを受けられるようになった…というわけです。

20世紀に入ると三段のティースタンドが登場し、現在、私たちがイメージする
サンドイッチ・スコーン・ペイストリーが並ぶアフタヌーンティーのスタイルが
完成しました。
誰もが気軽に<貴婦人のお茶時間>を愉しむことができるホテルアフタヌーンティーは
瞬く間に大人気となり、多くのホテルがアフタヌーンティーを取り入れるようになります。中でも最高峰と位置づけられ、<一度は訪れてみたい憧れのティープレイス>と呼ばれる場所がありました。

それがロンドンのホテルリッツです。

1906年のホテルリッツ

憧れのリッツでお茶を!

「まずはリッツでお茶をしましょう!」
紅茶留学のためにイギリスに渡った際、「アフタヌーンティーついて学ぶためにイギリスへ来た」と知ったステイ先のマダムがまず連れていってくれたのが、ロンドンにあるホテルリッツです。
1906年、ホテル王と呼ばれたセザール・リッツにより作られた英国王室御用達の最高級5つ星ホテル。パームコートでのアフタヌーンティーはオープン以来100年の歴史があり、伝統と格式を誇る英国のアフタヌーンティー文化を象徴する存在です。

パームコートという名は<椰子のある謁見の間>に由来し、太陽の光や南国のエキゾチックな雰囲気から英国貴族たちに愛されたヤシの木が点在する、アフタヌーンティー専用のドローイングルームにふさわしい空間。

ロンドンに数ある一流ホテルがひしめくなか、他のホテルと何が違うのでしょうか?
ひとことで言うと「リッツ独特の品格」というところでしょうか。
リッツに足を踏み入れた瞬間、貴族の館に招かれたような、上質な雰囲気に包まれます。
建物や調度品というハード面が一流というのは当然のこと、特筆すべきはソフト面。サービスやホスピタリティーが別格なのです。
それは、リッツのモットーである

「We are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen.

紳士・淑女をおもてなしする私たちもまた紳士・淑女であるべきです。」
という言葉にも表れていて、サービスをする側も、一人一人が<リッツ>という空間に
ふさわしい知性と品位を身につけ、プライドを持って仕事をしている様子が伺えます。
そして、その品位はリッツを訪れるゲストにも求められています。

現在のホテルリッツ by Clerkenwell Boy EC1

英国貴族も愛したパームコート

「リッツにはね、ドレスコードがあるのよ」
渡英したばかりで、何もわからない私が服装選びに戸惑っていると、マダムが「これ!」と
指差したのは、襟元が詰まった柔らかな素材のワンピースでした。

ロンドンの他のホテルがドレスコードを緩める中、リッツにはいまだコードがあり、宿泊客に限らず、アフタヌーンティーに訪れる際にも必要だといいます。
「特に男性には厳しくてね、ジャケットとタイ着用が義務付けられているの。旅行者用にと貸し出し用のタイが何十本も用意されているのよ」
そこまで…とは驚いたものの、だからこそリッツならではの品格というものが醸し出されているのだと実感しました。

予約は午後の3時半。
正装したドアマンが扉を開けてからティーテーブルに辿り着くまでに、マダムは人に会うたびに何かを手渡していたのですが、あまりにさり気ない仕草で、それがチップとは気づきませんでした。
豪華なシャンデリアが煌めく下で、燕尾服を身に着けた給仕人がサービスをし、生演奏の音楽が流れる中、正装した紳士・淑女がアフタヌーンティーを愉しむ…まるでヴィクトリア時代にタイムスリップしたかのような気分に浸った初の英国アフタヌーンティーでした。

それから20年、リッツのアフタヌーンティー人気は衰えるどころか加速していて、
当時は時間制限などなかったものの、現在は2時間制で一日に5回転、午前11時から
午後9時まで、もはやアフタヌーンでもない時間帯にまで及ぶオールデイ状態という加熱気味。

だからといって、現地ツアーなどに参加すると、ドローイングルームではなく別の大宴会場のような場所が用意され雰囲気が台無し…なんていうパターンもあるので、ぜひ個人でのアポイントメントをおすすめします。
あいにくオンラインが満席…という場合も、あきらめずコンシェルジュを通したり、丁寧にお手紙でお願いすると配慮してくださることもあります。

豪華な伝統を色濃く受け継ぎ、英国貴族も愛した空間、パームコート。
ロンドンへ行くならぜひ「リッツでお茶を…」エレガントの極みを体感してみてください。

現在のホテルリッツ by Clerkenwell Boy EC1

The Ritz London
150 PICCADILLY, LONDON W1J 9BR
https://www.theritzlondon.com/


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