クリスマスシーズンに人気のミンスパイ
12月に入るといよいよフェスティブムードに溢れるイギリス。通りにはイルミネーションがきらめき、そこかしこで大小さまざまなクリスマスマーケットが開かれ、寒さすらもクリスマスには必要不可欠な要素として甘受できるワクワク感に包まれます。
そして、どこよりもあの手この手でクリスマス気分を盛り上げようとしてくるのがスーパーマーケット。いつものビスケットやチョコレートすらも、クリスマス仕様のパッケージで可愛く装っているので、ついつい手が伸びてしまいます。
数あるクリスマス商品の中でも人気なのはミンスパイ。秋に入るとすでに棚に並び始め、よく見ると12月前に賞味期限が来るものも。待ちきれずにおやつ用に買う人も多いのでしょう。イギリス人がクリスマスシーズンに食べるミンスパイの数は平均15個と言われていますが、本当にそれだけ?と思ってしまいます。
お茶やマルドワインにもぴったり、ミンスパイ
さて、近頃は日本でも見かけるようになってきたミンスパイ。ご存知の方も多いと思いますが、ミンスミートと呼ばれる漬け込みドライフルーツをフィリングにした小型のパイです。さっくりした軽いショートクラストペストリーにブランデーがほのかに香るフィリング、お茶のお供にも、スパイスの効いた温かなマルドワインのお供にもぴったり。軽く温めてブランデーバターやクリームを添えればデザートにも。いくつでも食べられる危険なお菓子。毎年各スーパーではしのぎを削って趣向を凝らしたミンスパイを発売するので、巷ではどこのスーパーのものが美味しいかランキングが発表されます。もちろんベイカリーやティールームなどでも美味しいミンスパイが並びますから、食べ比べが楽しくて仕方ありません。
ミンスミートの移り変わり
このミンスパイの味を決めるのがミンスミートの配合。以前参加したナショナルトラストのミンスミート作りレッスンでは、お好きなものをご自由にと、チョコレートやチリまで準備されていましたが~基本はサルタナにカランツなどのドライフルーツに、柑橘系のピール、りんごにナッツにブランデー、お砂糖にスパイスなど。ここにバターまたはトラディッショナルなものになると、スエットと呼ばれる牛の腎臓周りの脂(ケンネ脂)を刻んだものが加わります。今でこそお菓子やセイボリーに使われるペストリーにはバターが使われますが、昔はイギリスでもバターは高級品だったこともあり、このスエットがよく使われていました。今でもクリスマスプディングはじめ、昔ながらのプディング作りには欠かせない素材のひとつです。
実はこのスエットがミンスパイの名の由来を解くカギ。
「ミンスパイ=ひき肉」のパイという名が示すとおり、16世紀頃は羊やウサギなど様々な肉にスパイスやドライフルーツを加えてフィリングにしていました。秋に屠った肉の保存性を高めるのはもちろんのこと、高価なスパイスやフルーツを使ったミンスパイはクリスマスを祝うにふさわしいご馳走だったのです。
18世紀に入り、砂糖が手に入りやすくなると、そこに砂糖が加わり、次第に肉の割合が減っていきます。ヴィクトリア時代には肉の代わりにスエットを入れたものが登場し、ほぼ現代のミンスパイと同じスタイルのものと、タンや牛ひき肉などの肉類が入ったものとの両方が存在する時代になります。ビートン夫人の家政書として有名な「Household management(1861)」にはやはりその両方が載っています。お肉入りのほうの材料は~レーズンにカランツ、牛肉の赤身とスエット、お砂糖に柑橘系のピール類、りんごにナツメグ、ブランデーなど。これらを混ぜ合わせて2週間漬け込んでから使いましょうとなっています。
ペストリーはバターたっぷりのパフペストリー。焼き上げてからさらに卵白とお砂糖をふって再度数分だけオーブンに戻して仕上げをします。なかなかに手の込んだ、そして贅沢なミンスパイです。やはり年に一度のクリスマス、ここぞとばかりに張りこんでお祝いをする家庭もあったのでしょう。
ミンスパイにまつわる言い伝え
ビートン夫人の時代と比べたら、ミンスパイひとつのありがたみは減っているかもしれませんが、それでも今の時代もスペシャルなクリスマスのお菓子であることには変わりありません。そのため、ミンスパイにまつわるさまざまな言い伝えがあります。
例えば~「クリスマスから1月6日のエピファニーまで毎日一つずつ食べると来る1年を健康に暮らせる」「その年最初のミンスパイを食べる際、口をきかず、願い事をするとそれが叶う」「ミンスミートを作る時は必ず東から西へ向かって混ぜないと縁起が悪い」などなど。
クリスマスの一か月前に、5時間も6時間も蒸さなくてはならないクリスマスプディングと違い、気軽に作れるミンスパイ。今年は手作りにチャレンジしてみてはいかがでしょう。沢山焼いて冷凍するもよし、缶に入れて涼しいところにおいておけば1週間は日持ちしますから、クリスマスを待つ間みんなで楽しんでも良し、1月6日まで、こっそり一人占めして楽しむもよし、楽しみ方はあなた次第。
甘い香りに包まれた心穏やかな時間をお過ごしください。
Happy Christmas!
ミンスパイ<レシピ>
Mince Pies
~ミンスパイ~
直径 6~7cm ×約12個分 タルトレット天板 または タルトレット型使用
<ショートクラストペストリー>
【A】
┏薄力粉 _________ 200g
┃グラニュー糖 ____ 30g
┗塩 ____________ ひとつまみ
無塩バター _______ 100g
卵 _____________ 30g
<ミンスミート>
レーズン・サルタナ・カランツ合わせて ___ 120g
オレンジ・レモンピール合わせて ___ 25g
ドライクランベリー ____ 35g
好みのナッツ ________ 20g(みじん切り)
りんご _____________ 正味50g(シュレッド状におろすまたはみじん切り)
オレンジ・レモンの皮のすりおろし __ 各1/2個分ずつ(またはどちらか1個分)
ミックススパイス※ _____ 小さじ1/2
ブラウンシュガー ______ 40g
ブランデー ___________ 大さじ2
ラム酒(お好みで)_____ 小さじ2
無塩バター(お好みで)__ 40g(溶かしたもの)
<仕上げ用> 卵白・グラニュー糖 適量
<下準備>
- ミンスミートは3日以上前に作っておく
- バターは1cm角にカットし冷やしておく
- 型にはうすくバターを塗る。
- オーブン予熱170℃
- <ミンスミートを作る>
ミンスミートの材料全てを混ぜ合わせて密閉容器に入れ、冷蔵庫で3日以上漬けこみます。 - <ペストリーを作る>
Aを合わせてボールにふるい入れ、バターを加えて、指先をこすり合わせるようにしながらさらさらのパン粉状にします。卵を加えてひとつにまとめます(水分が足りないときは水大さじ1を加えます)。ラップで包み冷蔵庫で1時間以上休ませてから使います。 - 休ませておいた生地を2~3mmの厚さにのばします。焼き型よりひとまわり大きな丸型で抜き、型にぴっちり敷きこみます。フォークで数か所空気穴をあけます。
- ミンスミートを大さじ1くらいずつ [3] に入れます。
- 残りの生地を2mm厚さにのばし、好みの型で抜きます。 片面に卵白を塗り、グラニュー糖をまぶしてから [4] のミンスミートの上にのせます。
- 170℃のオーブンで20分程うっすら焼き色がつくまで焼きます。
※ミックススパイスはイギリスの焼き菓子によく使われるスパイス
手作りする場合は
コリアンダー50%・オールスパイス30%・シナモン10%・ジンジャー5%・ナツメグ5%を混ぜて小瓶に入れて保存
※書籍は、以下のサイトからご購入可能です。