イースターから早1か月以上が過ぎ、緑も生い茂りすっかり初夏の陽気。
イギリスでは子羊たちが柔らかな芝生の上を元気に飛び回っている頃でしょう。この季節、イギリスで伝統的に食べられてきたお菓子が今日のテーマです。
Whitsun(ウィットサン)ご存知ですか?
Whitsun(ウィットサン)という言葉を耳にされたことはあるでしょうか?
イースターから数えて50日目の日曜日はWhitsun(聖霊降臨祭)と呼ばれるキリスト教教義上大切な記念日。
磔刑となったイエス・キリストがその三日後に復活したことを祝うのがイースター(復活祭)で、イエスはその後40日間弟子たちと共に過ごし、昇天します。
そしてその10日後イエスの予言どおり弟子たちのもとに聖霊が降りてくるのですが、それを記念して祝うのがウィットサンです。
キリスト教に由来するイギリスの祝日
イギリスと北アイルランドではWhitsun またはWhitsunday、他の地域ではペンテコステ(ギリシャ語で「50日目」という語に由来)とも呼ばれるこの日は、イースターマンデーが祝日のように、翌日のWhit Mondayも1971年までイギリスの移動祝祭日でした。今は「スプリングバンクホリデー」として、5月の最終月曜日に固定されています。
昔に比べて敬虔なキリスト教徒が減っているイギリスのこと、この日に教会におもむく人も減り、特別にお祝いをすることも少なくなってしまったそうですが、昔はWhitsunday から続く週をWhitsuntideと呼び、地方ごとに様々なお祝いをしていたそうです。例えばブラスバンドを従えたWhit walksというパレードをするところがあったり、モリスダンスもよく見られたそう。Whitsun ales と呼ばれるお祭り(祝宴)を催すところも多かったようです。
Whitsun(ウィットサン)に食べられてきたイギリスのお菓子たち
クリスマスやイースター然り、祝日と言えば欠かせないのがご馳走に甘いもの。このウィットサンのために作られてきたお菓子がやはり各地に存在します。
例えば、イングランド南西端コーンウォールの「サフランバンズ」。サフランで色付けした鮮やかな黄色が印象的なパンです。今でこそコーンウォールに行けば名物のお土産品として1年中売られていますが、昔はこのウィットサンのために、あるいはイースターのために焼かれていたパンでした。それはそうですよね、いくらコーンウォールが貿易で有名で、他の地域よりはスパイスが手に入りやすかったとはいえ、世界一高いスパイスと言われているサフランを入れたパンを日ごろから食べていたはずはありませんから。
またイングランド南西部ウイルトシャーにはその名も「ウィルトシャーウィットサンケーキ」というレシピが残されています。これはちょうどウィットサンの頃咲き始めるエルダーフラワーとやはり同じ頃に実り始めるグーズベリーを入れたケーキ。
イングランド中部ではラードとバター入りのパン生地でドライフルーツをサンドして焼くリンカンシャーの「リンカンシャーウィットサンケーキ」。キャラウェイシード入りのショートブレッドのようなランカシャーの「グーズナーケーキ」などがウィットサンのためのお菓子として知られています。
今でも作り続けられるヨークシャー名物の「ヨークシャーカードタルト」
これらはどれも、ウィットサンの風習が消えていくと共に姿を消してしまったのですが、一つ、イングランド北部で今も作り続けられているウィットサンのお菓子があります。
それが「ヨークシャーカードタルト」。今ではヨークシャー名物として季節に関わらず目にするお菓子ですが、もともとはウィットサンのために作られていたお菓子だったそう。
名前が示すとおり、ヨークシャーのカードチーズを使ったこのタルト、そのショートクラストペストリーのケースの中には、カードチーズとバター、卵にカランツ、オレンジピールなどを混ぜ合わせたものがたっぷり。風味付けにはレモンの皮、ナツメグなどのスパイスが入り、お砂糖は控えめのサッパリしたチーズタルトのようです。
このカードチーズのカードとは「curd=凝結させる」という意味どおり、乳に酸や酵素を加えて凝固させたもの。ヨークシャーは自然豊かな酪農が盛んな地域。春は牛が子供を産み、お母さん牛たちはせっせと母乳を出し、人間たちはそれでせっせとチーズを作り、余ったカードでカードタルトを作っていたわけです。
17世紀半ばにはすでに存在していたというカードタルト、当時はレモンの代わりに風味付けにローズウォーターが使われていたそう。ローズの香るカードタルトもまた美味しそうですね。
中でもウィットサンの頃に作られたスペシャルなカードタルトというものがあります。これが牛の初乳を使って作るというもの。出産直後のその黄色みがかった乳は栄養と脂肪分に富んだ赤ちゃん牛のためのスペシャルドリンク。これで作るととりわけコクのある美味しいカードになったそう。たしかに、美味しそうではありますが、赤ちゃん牛の分を取り上げてしまうようでちょっぴり可哀そうな気も?
さて、今年のウィットサンは5月23日、間もなくやってきます。
折角ですから美味しいヨークシャーカードタルトを作ってみませんか。
さすがに初乳のカードチーズは手に入りませんが、手作りのカードチーズは、市販のカッテージチーズとは一味も二味も違うフレッシュさ。ヨークシャーの牧場のB&Bで教えてもらったスペシャル美味しい本場のレシピをご紹介いたしますので、この機会に是非一度チャレンジしてみてください。
ヨークシャーカードタルト<レシピ>
Yorkshire Curd Tart
~ ヨークシャーカードタルト ~
直径21cmタルト型1台分
<材料>
ショートクラストペストリー
- 薄力粉 ______200g
- 塩 ________一つまみ
- 無塩バター ____100g
- 冷水 _______大さじ4
フィリング
- 無塩バター ____70g
- グラニュー糖 ___70g
- 卵 ________80g
- 生パン粉 _____10g
- カードチーズ※ __165g
- オレンジピール&レモンピール合わせて __15g
- カランツ _____20g
- レモンの皮のすりおろし __1/2個分
<下準備>
*ペストリー用のバターは1cm角にカットして冷やし、 フィリング用のバターは室温戻しておきます
*型にバターをうすく塗ります。
*オーブン予熱180℃
<ペストリー>
- 薄力粉と塩をボールにふるい入れ、冷えたバターを加え、指先をこすり合わせるようにしてさらさらのパン粉状にします。水を加えて、カードでひとかたまりになるようまとめ、ラップに包んで平らにし、冷蔵庫で1時間以上休ませます。
- 1. を3mm厚さにめん棒でのばし、型に敷き込みます。焼き縮みを防ぐために、冷蔵庫で30分程冷やしておきましょう。
- フォークでタルトの底に空気穴を数箇所あけたら、アルミホイルで覆い重石をのせ、180℃のオーブンで15分ほど空焼きします。重石とアルミホイルをはずしてさらに5分、底が乾くまで焼きます。
<フィリング>
- バターにグラニュー糖をすり混ぜ、溶いた卵を少しずつ加えます。残りのフィリングの材料をすべて加えたら、ゴムベラでざっくり混ぜ合わせましょう(カードの粒が残る程度)。
- タルトの中にフィリングを流して平らにし、170℃のオーブンで約45分焼きます。
粗熱が取れてしっかり冷めてからが食べ頃です。
※ カードチーズはカッテージチーズで代用できますが、手作りするとさらに本場の味に。
1リットルの牛乳を鍋に入れて沸騰直前まで温め、大さじ4のレモン果汁を加えて静かに混ぜます。 分離したら火を止めて、そのまま冷まします。固まったチーズをめの細かい網でこし、キッチンペーパーを敷いたザルにのせて、冷蔵庫で数時間水切りしてから使います。