『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』
2023年9月15日公開
エルキュール・ポアロの新しい冒険
ミステリーの女王、アガサ・クリスティが作り出した灰色の脳細胞、名探偵エルキュール・ポアロの新作映画がやってくる。
原作は1969年に発表された「ハロウィーン・パーティ」、クリスティが79歳の時の作品だ。原作の舞台はイングランド南西部のウドリー・コモン、そこで開かれたハロウィーン・パーティに関連した殺人事件だが、映画は大きく改変されている。
題名にあるように舞台はイタリアのベネチアになり、イギリスは全く出てこない。ファーストシーンからラストシーンまで、美しいベネチアの街を楽しむことができる。
ベルギー出身のエルキュール・ポアロはイギリスでの探偵業から引退し、ベネチアにやってきて半年ほどの隠遁生活をしているというところから映画は始まるのだ。これには結構驚いた。イタリアを舞台にしたクリスティの探偵小説を読んだことはなかったから。
更に物語の時代は1947年に設定されているが、敗戦から2年後のこの時代に、しかもイタリアでハロウィーンというのも驚きだったから。
ケネス・ブラナーが三度目の監督・主演
監督・主演はケネス・ブラナー、2017年の「オリエント急行殺人事件」、2022年の「ナイル殺人事件」に続く3作目のブラナー監督・主演作品だ。全2作が原作におおむね忠実だったのに比べ、今回は大きく異なる。原作から持ってきたのは、極端に言えばハロウィーンだけと言える物語になっている。ブラナーの3作品はいずれもマイケル・グリーンが脚本を書いている。今回の作品はグリーンの物語ということになる。主人公エルキュール・ポアロと共に、クリスティ作品にはおなじみのミステリー小説作家・アリアドニ・オリヴァも登場する。彼女がポアロに声をかけて事件に入っていくところは原作と同じだ。
この映画の製作総指揮を務めるアガサ・クリスティのひ孫、ジェームズ・プリチャード氏も今回の変更を納得、絶賛しているという。
水の都に漂う亡霊の影
映画の題名に入っている「亡霊」も映画では大きな意味を持ってくる。ベネチアという町が選ばれたのも、この町が持つミステリアスな雰囲気が、亡霊がいても不思議はないと思わせるからだろう。この亡霊に関係して重要な役を演じるのがミシェル・ヨーだ。
今年の米アカデミー賞で主演女優賞を受賞したのはご存知の通り。アジア人として初のアカデミー主演女優賞受賞後の、日本で公開される初めての作品がこの映画だ。撮影自体は受賞前に終了していただろうが。
イギリスは出てこないけれど、ケネス・ブラナーの力強い映画をお楽しみください。
『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』:公式サイト
https://www.20thcenturystudios.jp/movies/poirot-movie3
『オペレーション・フォーチュン』
2023年10月13日公開
世界7か国縦断、痛快スパイ・アクション!!
これがこの映画の惹句(キャッチコピー)だ。チラシにあるそのままを書けば、世界7か国とは次のようになる。
LONDON(England)―MOROCCO(North Africa)―MADRID(SPAIN)―BURBANK L.A.(USA)―CANNES(France)―ANTALYA(Turkey)―DOHA(Qatar)
都市名だったり、国名だったり、地域名だったり、この羅列は整然とはしていないが、そのこと自体が映画を見て興奮したままこのチラシを作った人の熱量を感じさせる。
さらに正確を期せば、始まって3分40秒まではロンドンとなるが、実際にはウクライナのとある場所(ただし室内のみ)の映像がロンドンと交互に出てくるので、8か国となるのでは?
まあ、そんな細かいことはどうでもよく、スパイ映画の本場らしく、英国諜報局内の対立をも描いて、最後までワクワクさせる。
イギリス諜報局MI6御用達の最強スパイ
映画の主人公はオーソン・フォーチュンだ。
今回MI6の敏腕エージェントに降ろされた使命は、ウクライナの研究施設から盗まれた正体不明の”ハンドル”を回収せよというもの。何かは分からないのに、ブラックマーケットではこのハンドルが100億ドルの値を付けられているという。世界中の犯罪組織が狙ってくる争奪戦だ。
こんな重大な任務を任せられるフォーチュンを上手く使うには、彼の閉所恐怖症のため移動にはプライベートジェット機を使い、不安に対する薬として高級ワインを提供しなければならない。
フォーチュンを演じるのはジェイソン・ステイサム、1967年ロンドン生まれ。飛込競技の英国代表として活躍後、モデルから俳優に転身し、今やイギリス男優のアクションスターNo.1だ。鍛えられた肉体を駆使して、キレのいいアクションを見せてくれる。
フォーチュンを作った男
このスピード感にあふれたアクション映画を作り上げたのはガイ・リッチー監督。1968年生まれのイギリス人。少年時代に「明日に向って撃て!」を見て映画制作を志すとある。それで、この映画に「明日に向って…」の映画とその主題歌「雨にぬれても」が突然現れたのか!監督の長編映画監督デビューとなった作品が「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」、この作品にはジェイソン・ステイサムも俳優としてのデビュー作として出演している。二人は1998年のこの作品で共にデビューし、以来4半世紀の間に今回の新作を含め5作品で一緒に映画を作っている。
もう一人のイギリス男
この作品の持つイギリスらしいユーモアの大きな部分を担っているのがヒュー・グラントだ。
1960年ロンドン生まれ。87年の「モーリス」で一躍有名になった後、「ノッティングヒルの恋人」等のラブコメでもなかなかのものだったが、最近の微妙な面白さは還暦を過ぎた年の功か。今回の億万長者の武器ブローカーという役も楽しめた。
はじまりは付いていけないほどの速い展開、終わってみればよく分かって楽しめる作品だ。
『オペレーション・フォーチュン』公式サイト:https://operation-fortune.jp/