コロナで自由に動けなくなった2020年、その状態は今も続いています。英国に出かけたくても暫くは簡単には飛んでいけない状況です。
2020年、そんな日本にいながら、スコットランドの山やグラスゴーのウエスタン酒場、そしてケンブリッジやオックスフォードという大学街を訪れました、勿論ロンドンにも。
英国好きな皆さんに楽しんでいただけるサイトの発足にあたって、まず2020年のUK Walker in Cinemaをたどってみましょう。
女性が活躍したのが昨年のイギリス映画でした。かつて男性の国と思われていた英国も随分変わったという印象です。
イントゥ・ザ・スカイ
まずは気球飛行士のアメリア、彼女に出会ったのは1月公開された「イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり」。1862年に酸素ボンベ無しで気球を操りながら、高度11,277mに上昇したという実話からの映画化です。この条件でのこの高度は現在もなお破られていない記録です。日本~イギリス間を飛ぶジェット旅客機とほぼ同じ高度ですから驚き。気球の飛行をリアルに描き、下手なアクション映画など太刀打ちできない迫力の画面でした。アメリアは一緒に乗っていた気象学者が失神した後、この高度で信じられない活躍をします。
イーディ、83歳初めての山登り
同じ1月にはイーディにも出会いました。「イーディ、83歳初めての山登り」は介護していた夫が亡くなった後、子供の頃父親と仰ぎ見たスコットランドの山スイルベン山に出かけます。イギリスは元々それほど高い山はないですよね。調べると最高の山が1344mのベンネビス山、スイルベン山は731mとかなり低いですが、形が特徴的。荒野に突如お椀を伏せたような形なのです。つまり、突如垂直に切り立った山なのです。高齢にして、そんな山に挑むイーディが凄い。何事を始めるにも遅いということはないと教えてくれました。
ワイルド・ローズ
スコットランドのグラスゴーは音楽にあふれた街だと教えてくれたのが「ワイルド・ローズ」、6月の出会いです。主人公はグランド・オール・オープリーという名のウエスタン酒場で歌いながら歌手を目指しているローズ。グラスゴーに何故アメリカ西部の歌ウエスタンの酒場があるのか不思議ですが、そんな疑問も吹っ飛ぶほど主演ジェシー・バックリーの歌唱力に引き込まれます。歌手の月並みな成功物語にしなかった監督トム・ハーパーも立派。このハーパー監督、「イントゥ・ザ・スカイ」の監督でもあり、要注目の41歳です。「英国王のスピーチ」「レ・ミゼラブル」等を監督したトム・フーパーとは別人、要注意です。
ジョーンの秘密
8月にやってきたのは、イギリスらしくスパイの映画でした。「ジョーンの秘密」は80歳代の主人公がKGB(ソ連の情報機関)のスパイとして逮捕されるところから始まります。1938年、ケンブリッジ大学で物理学を学んでいた彼女は、その後原子爆弾開発に係る情報をソ連に渡すようになります。2000年に逮捕された実在の女性をモデルに作られた作品で、主人公ジョーンを演じたジュディ・デンチ、監督にあたったトレヴァー・ナンは共にイギリス・ロイヤル・シェークスピア・カンパニーの舞台公演で大活躍をしている人たちです。トレヴァー・ナンは舞台の「キャッツ」や「レ・ミゼラブル」の演出家でもあります。
オフィシャル・シークレット
8月には実話から作られたもう一つの作品「オフィシャル・シークレット」が公開されました。2003年1月、英国の諜報機関GCHQ(政府通信本部)で働くキャサリンが米国の諜報機関NSA(国家安全保障局)からのメールを外部にリークする。それはアメリカのイラク侵攻を防ごうとする行為だったのですが、侵攻は開始され、彼女は国から起訴される。これ以降の彼女を支援する人々を見ていると、英国という国の真の強さを見せられたようで感心します。
ノッティングヒルの洋菓子店
12月には「ノッティングヒルの洋菓子店」が開店。この映画の原題はLove Sarah、映画の冒頭で新規開店する店に自転車で向かう女性がサラ、友人のイザベラと一緒に洋菓子店を始める予定なのです。直後、彼女は交通事故で亡くなってしまいます。その後をイザベラとサラの娘クラリッサ、サラの母ミミの3人で店を始めるお話。ノッティングヒルには恋人(以前そういう映画がありました)だけではなく、世界の色々な国の人たちが住んだり、働いたりしているらしく、日本人女性が抹茶クレープミルフィーユを注文しに来ていました。
男性主人公の映画で印象に残ったのは2本。
シェイクスピアの庭
3月公開の「シェイクスピアの庭」は、1613年6月29日「ヘンリー八世」上演中にロンドンのグローブ座が焼け、断筆したシェイクスピアが約20年ぶりにストラットフォード・アポン・エイボンで過ごした晩年を描いています。11歳で夭折した息子ハムネット(ハムレットではありません)を悼む庭を造る話で、シェイクスピアの家族が描かれます。
博士と狂人
10月にはオックスフォード英語大辞典の誕生秘話を書いたノンフィクションからの映画化「博士と狂人」が公開されました。博士はまだ分かるとしても、狂人が、しかもアメリカからやってきたというところに感心します。原作発刊と同時に映画化に名乗りを上げてから20年のメル・ギブソンが博士、ショーン・ペンが狂人、テヘラン生まれのイラン系アメリカ人P.B.シェムランが監督・脚本を担当した長編初監督作品です。
ダウントン・アビー
男女に関係なく多くの人が描かれる群像劇、そのイギリス代表は「ダウントン・アビー」でしょう。2010~15年の6シーズンに渡ってイギリスで放映されたテレビドラマがあまりに好評で、2019年にはドラマ最終回の1年半後の物語が映画として製作・公開されました。日本公開は2020年1月。1927年イギリス国王夫妻がダウントン・アビーを訪問、宿泊する物語が同じ脚本家ジュリアン・フェロウズによって作られました。貴族と使用人の間の人間関係というこのドラマの面白さに加え、国王の使用人(侍従長、料理人、サービス係など)との闘いも描かれ、面白さもアップしていました。
《劇場版ダウントン・アビー》
Blu-ray: 1,886 円+税/DVD: 1,429 円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
さいごに
最後に、その映画の存在がショックを与えた作品、「TENETテネット」が9月に封切りされました。今や世界で最も注目されているクリストファー・ノーラン監督の新作です。これは見ていただくしかない映画です。
日本での公開本数はそれほど多くはなかいイギリス映画ですが、上記のようにそれぞれ面白さを味あわせてくれるバラエティに富んだ作品群でした。
劇場公開が終了している作品もあります。DVDや配信でお楽しみください。)
2021年は始まったばかり。これから新しく公開される作品を中心にイギリス映画についてご案内します。