2026年1月9日公開
英国のグレートブリテン島の北端から海を挟んで小さな島々が70ほど集まっているのがオークニー諸島だ。スコットランドのオークニー諸島が舞台となる映画は初めて見た。
自然はそれに合う人々を育てる
北緯59度にある島々はそれなりに厳しい気候となるようだ。映画は海と空の遠景から始まる。雄大な画面、しかし雲が空を支配し決して明るくはない風景の中に小さくひとりの人間がいる。大きな風景の中に飲み込まれてしまいそうな人間だ。
この映画は島々を舞台にしていて、時々海の風景が現れる。砂の浜辺に面した海だったり、岩が突き出たような海だったり、アザラシが時々頭を出してこちらを眺めているような海であり、さらにアザラシが泳いでいる海中画面だったりする。
アザラシから人間の姿に変身する神話上の種族セルキーについての話が出てくる。波にのまれた人間はセルキーになるとか、セルキーは月夜に踊るとかの様々の伝説があるようだ。アザラシがこっちを見つめている画面が現れると、こうした話が信じられるような気がしてくる。
北の果ての厳しい自然の中で、人々はどんな人間になっていくのだろう。
女性が作り上げた女性の物語
映画はエイミー・リプトロットの回想録「The Outrun」を原作としている。2016年にイギリスで出版されるとベストセラーになったらしい。日本では残念ながら出版されていない。Outrunは「追い抜く」との意味だが、スコットランドの中でもオークニーやシェットランド諸島の農業における方言として「農場を囲む放牧地」等を意味するという。
主人公はオークリー諸島で育てられた後、ロンドンで生活してきた29歳の女性ロナ。ロンドンの大学院で生物学を学んでいた彼女は、10年ぶりに故郷オークニー諸島に帰ってくる。
都会生活の中で、疲れをいやすためか、あるいは様々なことから逃げるため、彼女はいつかアルコールに溺れるようになっていた。恋人との関係もうまくいかなくなっていたのである。こうした様々な事柄から逃げるようにオークニー諸島に帰ってくるのだ。
エイミー・リプトロットの書いた女性の生き方を、ロナを演じたシアーシャ・ローナンの演技によって描き出す映画を作ったのは、ノラ・フィングシャイト監督だ。
フィングシャイト監督は1983年2月17日にドイツ・ブラウンシュバイクで生まれている。学生時代に地元の劇場で舞台製作にかかわることで、演劇と演出の実務経験をしている。その後ベルリンで自主運営型の映画学校設立にかかわると同時に、演技トレーニングプログラムにも参加、さらにバーデン=ヴュルテンブルグ・フィルム・アカデミーでフィクション映画の演出を学んだという。彼女の長編劇映画デビュー作である「システム・クラッシャー」(2019年)は日本でも公開されている。父親から受けた暴力がトラウマとなっている9歳の少女、多くのケアホームや里親のもとに置かれても、その関係を壊してしまう制御不能で攻撃的な子供を描いていた。
エイミー・リプトロット、シアーシャ・ローナン、ノラ・フィングシャイトの3人の女性で作られたのが「おくびょう鳥が歌うほうへ」だ。
製作・主演のシアーシャ・ローナン
シアーシャ・ローナンの名前はSaoirse Ronanと綴る。Saoirseをシアーシャと発音するとは何語か分からない。海外でもこの名前は難しいらしく、彼女はあえて「私の名前はSUR-SHA」と書いたボードを持って登場したり、アメリカやイギリスでは「サーシャ」と発音されることが多いと答えたりしている。Saoirseはアイルランド・ゲール語で自由を意味するという。両親はともにアイルランド人であり、父親も「シアーシャ」と発音しているらしい。
彼女は1994年4月12日にニューヨークで生まれている。3歳の時両親とともにアイルランドに移り住んだ。9歳で子役として活躍をはじめ、アイルランドのテレビシリーズなどに出演した。
2007年には映画「つぐない」に出演する。イアン・マキューアンの「贖罪」を原作としたこの映画で、シアーシャは主人公セシーリア(キーラ・ナイトレイ}の妹ブライオニーを演じた。ブライオニーが13歳の時、姉の恋人ロイを誤った思い込みで強姦の犯人であると証言し、ロイは収監される。当時13歳だったシアーシャが演じるブライオニーの強烈さが印象に残る作品だった。この演技でアメリカ・アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされ、シアーシャ・ローナンは一躍有名になった。
その後も賢明な作品選択で「ブルックリン」「レディ・バード」「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」等に主演し、実績を積み上げてきた。
今回の「おくびょう鳥が歌うほうへ」は自ら製作を希望し、心理描写の難しい作品を成功させている。
おくびょう鳥?
鳥のことは詳しくないので、おくびょう鳥を色々調べてみた。映画のセリフではウズラクイナという名前が出てくる。このウズラクイナがおくびょう鳥と思われる。
インターネットに “臆病な水鳥の中でもクイナ類は特に警戒心が強く”との表記があり、
多分この鳥のことだろう。
画像提供:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2024 The Outrun Film Ltd., WeydemannBros. Film GmbH, British Broadcasting Corporation and StudioCanal Film GmbH. All Rights Reserved.
配給:東映ビデオ
公式サイト:https://www.outrun2026.com/
