2024年3月1日公開
アーガイルとは何ぞや?
アーガイルと言えば、セーターでおなじみ、ひし形に十文字ラインが入った昔から使われてきた模様だ。アーガイル柄はスコットランで有名なタータンチェックの一つの柄として1400年代に登場したらしい。今ではタータンチェックとアーガイルは別のものになっているが。スコットランドのアーガイル地方の氏族だったキャンベル家(Campbells of Argyle)のタータンチェックをルーツとする説などがあるようだ。いずれにしてもスコットランドの地名から名前が付けられたと思われる。
映画のポスターの背景にはアーガイル柄が使われているのでご覧ください。
そんなアーガイルを題名にした映画はスパイ映画だ。アーガイル柄のセーターや靴下などを身に付けたスパイが活躍するのだろうか?
作家とスパイ、小説と現実
映画が始まると、ギリシャを舞台に、いかにもスパイ然とした男性が活躍するアクション場面が展開される。きちんとスーツを着たスマートな男性だ。これがアーガイルと呼ばれるスパイなのだ。とりあえずアーガイル模様のものは身に付けていないのだが。
彼は、実はアメリカの作家エリー・コンウェイが書く小説の主人公で、映画はまずその小説の映像から始まったのだ。この後も小説家がコロラドの自宅から列車に乗って移動するところなどの現実の世界と、スパイ・アーガイルが活躍する場面が交互になり…エリーの現実世界とアーガイルの小説世界が入り混じり、いつか判別不能になっていく。そこには本物のスパイも絡んできて、二重どころか三重にもあるいはそれ以上に発展していく。
こうなると、映画を見ている我々も、まるで川の流れに乗っているかのように、身を任せるしかない。流れていくのを楽しむ気分で見た方がいい。
ちょっと長めにマシュー・ヴォーン監督のこと
“マシュー・ヴォーンのひねくれた才能がスパイ映画の常識を華麗に覆す。”映画のチラシの裏側にこんな風に書かれている。大丈夫か?!!確かに、ジェットコースターみたいなこの映画を作ったのはひねくれた才能のマシュー・ヴォーン監督だ!!1971年ロンドン生まれのイギリス人。1998年ガイ・リッチー監督が監督デビューした「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」をプロデュースして映画界にデビュー、しばらくはリッチー作品をプロデュースしていた。その後他の監督作にも関わり、2004年には「レイヤーケーキ」で自身が監督デビュー、「キングスマン」シリーズなどを含め今回の「ARGYLLE/アーガイル」が監督8作目。監督作8本を含め今までにプロデュースした映画は21本になる。
ヴォーンという名前からはロバート・ヴォーンを思い出す。1960年代アメリカの人気テレビ番組「ナポレオン・ソロ」でソロを演じ人気を得た。もっとも、人気で言えば、相棒のイリヤ・クリヤキンを演じたデヴィッド・マッカラムの方が女性を中心に人気があったが。
ウィキペディアを読んでいたら驚くべき事実を知った。マシュー・ヴォーンの母親が当時、このロバート・ヴォーンと交際していて彼の出生名はマシュー・アラード・ロバート・ヴォーンだったという。幼い頃は彼の息子だと信じて「ヴォーン」姓を使っていたが、DNA検査で実の父はジョージ・アルバート・ハーリー・デ・ヴィア・ドラモンドだと判明したという。国王ジョージ6世を名付け親に持つイングランド貴族の息子だったのだ。マシューの現在の本名はマシュー・アラード・デ・ヴィア・ドラモンドとなっているが、職業上の名前はマシュー・ヴォーンを使っているという。
イギリスにはマシュー・ボーンもいる。こちらはコンテンポラリーダンスの演出・振付をしていて、男性ダンサー中心の「白鳥の湖」公演で注目された。マシューは同じMatthewだが、ラストネームはヴォーンVaughnとボーンBourneで違っているのでご注意を。
この映画を十分に楽しむために
最近の映画は長い!この映画の上映時間は2時間19分。超ではないが、ちょっと長い。しかも後半に行くにしたがって、話の回転が速くなる。ヴォーン監督をはじめ、作り手たちがこれでもかと力を入れてくる。十分に楽しむためには体力も必要。がんばってください。
ギリシャから始まる映画は、アメリカのコロラド、アムトラック車中、ロンドン、香港、フランスのワイン用ぶどう畑と話が進む。
ヴォーン監督はこの作品に次のスターたちを散りばめた。
- 主人公エリー・コンウェイにはブライス・ダラス・ハワード:映画監督ロン・ハワードの娘で、「ジュラシック・ワールド」などに出演
- 相棒のエイダンにサム・ロックウェル:「スリービルボード」でアカデミー賞助演男優賞
- アーガイルにヘンリー・カヴィル:「マン・オブ・スティール」でのスーパーマン役
- アーガイルと踊るルグランジェをデュア・リパ:イギリスの歌手・モデル、「バービー」で映画デビュー、今作が2作目
- キーラを演じるアリアナ・デボーズ:「ウエスト・サイド・ストーリー」でアカデミー助演女優賞
- アルフレッド・ソロモンを演じるサミュエル・ジャクソン:超多数の作品に出演、世界最高の興行収入を上げた俳優としてギネス認定、アカデミー賞名誉賞◎エリーの愛猫はチップ:監督ヴォーンの妻でスーパーモデルのクラウディア・シファーの飼い猫
この作品のもう一つの魅力は音楽。ヴォーン監督は”心地良く気分が良い感覚を表現するため、私が思いつく限り最も気分が良くなる音楽、つまりディスコを使うことにした。”と言っている。
ビートルズ、デヴィッド・ボウイなどを含め、ポップでリズミカルな曲が多数流れる。
Appleの進出
この作品の話題の一つは、製作にAppleが関わっていること。
表向きにはユニバーサル映画とアップルの共同となっているが、ユニバーサルは配給のみを行っていて、実の製作はアップルのみが行っていること。日本で公開されるアップル映画としては「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」「ナポレオン」に続く作品になる。映像専門ではない会社の映画制作への進出という意味では、Amazonと同じ道を進んでいる。