パディントンとのショートムービーにみる”ma’am”のことば
エリザベス女王在位70周年記念プラチナジュビリーのお祝い行事、皆様ご覧になりましたでしょうか?
6月初めに4日間にわたって公式行事があり、中でも初日のトゥルーピング・ザ・カラーというセレモニーは NHK-BS でも中継されたように、今回のジュビリーは全世界が注目していました。
そして公式行事のひとつ、バッキンガム宮殿前でのコンサートに先駆けて、なんと女王さまご自身がパディントンと共演なさるショートムービーが!ロンドンオリンピックの時の女王さまとジェームズボンドも大きなサプライズでしたが、これを遂行する英国王室チーム、そしてOKなさる女王さま、つくづく凄い国だなと改めて思いました。
女王さまとパディントンの共演。最後には二人がスプーンでカップ&ソーサーを叩きながらクイーンの We Will Rock You のリズムを刻み、そのまま実際のコンサートの演奏に繋がりお見事でした。
パディントンが女王様とのお茶に招かれ、ちょっとしたハプニングもありという短いムービーですが、最後にパディントンが女王さまに、”Happy Jubilee ma’am, and thank you… for everything”(陛下、ジュビリーおめでとうございます、そしていろいろとありがとうございます)と、お祝いとお礼を述べます。
女王さまへの呼びかけは、この言葉で
女王さまに対する呼びかけ方は決まっており、お会いして最初は Your Majesty 、それ以降は ma’amとお呼びするのが基本的ルールだそうです。
ma’amはmadamの省略形で、立場が上の女性に対する呼びかけで使われます。女王さまと直接お会いすることはそうそうないと思いますが(笑)、一般的な場面で言えば高級なホテルやレストランなどでしょうか。お店の人が男性の顧客に対してはsir、女性にはma’amと言います。また、イギリスの学校では先生に対してこれを使うところもあり、私が高校時代を過ごしたドイツのブリティッシュスクールがそうでした。
プラチナジュビリーでのバッキンガム宮殿前、夜空に Thank you Ma’am の文字が。今回のジュビリーでは、女王さまに対する「感謝」がひとつのテーマのようになっていました。
カタカナだとどちらも「マム」になる”ma’am”と”mum”の発音
朝のホームルーム教室で先生が出席を取る際には名簿のファーストネームだけを読み上げるのですが、私のクラスは女性の先生だったので、生徒たちの返事は “Yes, ma’am” でした。
このma’am、イギリス英語の辞書では2種類の発音が載っており、時には1つだけ、それも女王さまをお呼びするのに正しくないほうが記載されています。スペルのせいなのかfarm(農場)の「アー」と思っている人が多いようで辞書の記載もそれなのですが、実際には女王さまに対しての時は “ma’am as in ham” 「ハムと言う時と同じアの母音で」と言われます。
ma’amをカタカナで書くと「マム」ですが、日本語で「ア」になる英語の音は何種類もありますので、英語でこれを言う時はちょっと注意が必要です。
日本語はあまり口の周りを動かさないで話す言語ですが、英語は日本語に比べてもっとあちこちが動きます。このma’amの場合は、日本語のアよりも大きく口が動きます。実際話している人の口元を見てもそうは見えないかもしれませんが、口周りの筋肉は日本語よりもずっと動いているのです。日本人がカタカナのつもりで「マム」というと弱いアになるので、どちらかと言えばma’amよりもmum(お母さん、ママ)に近い音になりそうですね。
(ちなみにこの「ママ」を意味するmumはイギリス英語でして、アメリカ英語だとスペルはmom、そして発音は全く違う音になります)
さきほどの学校でのホームルームの話に戻りますが、今思えば当時の私はこのma’amを正確に言えてなかったはず。どちらかと言えばmumを弱く言っている音に近かったと思うので、当時のクラスメートには私の返事が「はい、ママ」みたいに聞こえて、ウフフと毎朝思っていたかもしれません(笑)。
この「ア」の発音の違いは文字ではわかりにくいと思いますので、YouTubeにアップしました。ぜひこちらもご覧下さい。
ドイツのブリティッシュスクールで過ごした高校生活
このように私の学校では先生に対しては yes, sir / yes, ma’am と言っていましたが、1980年当時のイギリス国内でも全ての学校でこうだったわけではないようです。ある時イギリスから来たばかりの転校生が、yes, sir / yes, ma’amという私たちの返事に驚いていたのを覚えています。その男子生徒が言うには、この学校が英国軍人の子女のための学校だからじゃないか、とのことでした。
私が通った学校は、当時の西ドイツ、デュッセルドルフからオランダとの国境に向かって西へ約40 kmのところにあるブリティッシュスクールでした。当時NATOでのイギリスの管轄が北部ドイツだったのでそのエリアにはいくつも英軍キャンプがあり、そこの子供達のための学校がたくさんありました。たまたまご縁があって、イギリス軍とは当然関係のない日本人の私が入れてもらうことになったのですが、普通のインターナショナルスクールと違って基本的にイギリス人だけのための学校です。場所はドイツ国内ながら、ドイツ要素はゼロ。全校1200人ほどの中で日本人は私たち姉妹のみという、外国人も多いイギリス国内の学校に通うよりもはるかにイギリス人度数の高い、英語の勉強にはもってこいの環境でした。
“Her Majesty’s”の文字が記された英軍の文具
そんな学校ですので、学校で使う封筒には On Her Majesty’s Service(service は軍のこと)、学校指定のノートには HM (= Her Majesty’s) Service Schools と書かれていました。
女王さまに直接お会いする機会はもちろんなかったものの、Her Majestyという言葉は日常的に見聞きしていたため勝手に女王さまを身近に感じて育ったものですから、今回のご在位70周年という大きなお祝いは私にとっても大変感慨深いものがありました。
と言うわけで、今回はパディントンと同じセリフで締めくくりたいと思います。
Happy Jubilee, ma’am, and thank you for everything.
【UK Walkerおすすめ情報】
イギリス英語発音スクール British English House 高島まきさんのYoutubeチャンネルをご紹介します。
イギリス英語の中でも「良い発音」、そしてより良いコミュニケーションを目指した動画を配信されています。
数年前のエリザベス女王クリスマススピーチの発音話や、リズムを意識した朗読などもありますので、ぜひご覧になってみてください!
by UK Walker編集部