イギリスの陶器に魅せられて30年前にアイデンポタリー(Iden Pottery)という窯元の作品を、日本に紹介したことを以前の投稿でお話しました。当時は英国陶器と言えばウェジウッドやスポードなどが日本の市場で優勢を誇っており小さな窯で焼かれたハンドメイドの品々はあまり知られていませんでした。
イギリス人の家庭で日常使われている普段使いの陶器たちは、長く使用に耐えられるようにしっかり作られています。これらは家族何世代にもわたって大切に扱われ、歴史とキャラクターが詰まった貫禄のある品々に変化します。私たちがアンティークやコレクタブルというグレードを付けて宝探しに出かけるのも、背後に潜む歴史や物にまつわるストーリーに魅せられるからに違いありません。
イギリス国産陶磁器の始まり
イギリスで国産の陶磁器が本格的に作られ始めたのは、1600年代の半ば過ぎだと言われます。オランダやドイツの陶磁器に影響を受け試行錯誤を繰り返しながら作陶していました。産業革命に伴うお茶文化の浸透により、18世紀に入り国産の陶磁器は目覚ましい進歩を遂げます。
英国陶器の父と言われるジョサイア・ウェジウッド(Josiah Wedgwood)もこの時代に生きた人です。
英国陶磁器のマークについて
英国の陶磁器には、製作者と年代を記したマークが付けられます。この本には代表的な陶磁器の会社と歴史が記されています。
**書籍の購入ガイド**
『Encyclopedia of British Pottery and Porcelain Marks』
1994年刊行
Geoffrey A. Godden (著)
中古品になりますが、Amazonで購入が可能です。
¥4,395~(2022年1月)
こちらはアイデンポタリー(Iden Pottery)の食器。
裏にはこのようなマークが付いています。
このマークを先ほどの本『Encyclopedia of British Pottery and Porcelain Marks』で調べてみると、アイデンポタリーの陶器であること、作者はデニス・タウンゼンド(Dennis Townsend)で1961年以降の作品であることが記されています。
蚤の市を訪ねて
アンティークの陶磁器を求めて蚤の市へ。
古いパラゴンのカップ&ソーサーを見つけました。
早速年代を調べてみました。
背後のマークから1913年のパラゴン社(Paragon)の作品だと分かりました。古い陶磁器の年代を調べるとその時代の歴史も学べます。
現在の陶磁器
ブルー&ホワイトの食器で統一された友人宅の食器棚。アンティークと現行品が違和感なく仲良く並んでいます。色と質感を統一し、すっきりまとめるディスプレイを彼女から学びました。青白柄が好きな彼女は、良くストークオントレントにあるバーレイ社を訪ねます。
バーレイ(Burleigh)
バーレイ社。1851年に創業して以来何世代もの家族に引き継がれ、デザインとクオリティを守ってきました。長い年月をかけて伝統と技術を守ることは並大抵ではありません。数年前に経営危機に陥ったとき、チャールズ皇太子の運営するHRH The Princes Regeneration Trust (プリンス リジェネレーショントラスト)からの支援を受け、経営難を乗り切ったそうです。英国の手仕事を大切にするロイヤルファミリーの暖かい視線が感じられます。
エマ・ブリッジウォーター(Emma Bridgewater)
ストークオントレントには沢山の陶磁器のファクトリーがあります。 エマ・ブリッジウォーターもその一つ。
切り抜いたスポンジで絵付けをするという斬新的な技法で、1980年代末から90年代に一世を風靡しました。エマの作品のコンセプトは毎日の暮らしを楽しくするテーブルウェアであり、大切な人へ贈るメッセージを届けるツールとしての陶器です。
エマがこの仕事をするきっかけとなった有名なお話があります。
当時ロンドンに住んでいた彼女は、母へ贈るカップ&ソーサーを買いに行きました。I love you. I miss you. (大好きよ。会いたいわ。) というシンプルなロゴの入ったものを探し回りましたが見つかりません。それでは自分で作ったらどうかしらと考えたことで、エマ・ブリッジウォーター社が誕生しました。自分のため、家族のため、友人のためのメッセージを、陶器を通して伝え続けています。
最後に
アイデンポタリー社と仕事をしていた頃、イギリスの陶磁器がいかに東洋の影響を受けてきたかを改めて感じました。中国の景徳鎮の作風を見て、ヨーロッパの主な窯では白磁に青を取り込む技法を繰り返し研究したそうです。日本の伊万里焼や九谷焼の技術も同様でした。
2年前に渡英した折、偶然知り合ったイギリス人陶芸家は、”京都のある窯元で1年間修業をしてきました”と懐かしそうに話していました。文化交流をしながら自身の作品を作るアーティストたちには共通の雰囲気があります。それは他者の作品への謙虚さです。私が陶磁器に惹かれるのもモノづくりをする人々の純粋な仕事ぶりゆえだとしみじみ思います。