
ロンドン中心部から電車でわずか40分ほど。テムズ川沿いに建つハンプトンコート宮殿は、ヘンリー8世ゆかりの壮麗な宮殿として知られています。しかし、この場所の本当の魅力は建物だけではありません。約24万平方メートルにも及ぶ広大な庭園には、英国庭園の美しさが凝縮され、季節ごとに異なる表情を見せてくれます。
ガーデニングが好きな方はもちろん、英国らしい風景をゆっくり楽しみたい方にも、ぜひ訪れてほしい場所です。筆者は職場がハンプトンコート宮殿内にあり、幸運にもヘッドガーデナーさんのガイドツアーに参加することができましたので、情報を皆さんにもお伝えしたいと思います。
四季折々に楽しめる個性豊かな庭園
ハンプトンコート宮殿には、それぞれ異なる時代や様式を反映した庭園があります。
グレート・ファウンテン・ガーデン(Great Fountain Garden)
宮殿正面に広がるもっとも印象的な庭園です。整然と並ぶ並木道と美しい噴水が織りなす景色は、まさに英国王室の威厳を感じさせます。
春にはチューリップ、夏には色鮮やかな花壇、秋には落ち葉、冬には芝生に降りた霜など、四季を通して楽しめ、写真撮影にも人気のスポットです。
プリヴィ・ガーデン(Privy Garden)
現在私たちが目にする庭園は、17世紀末の姿を忠実に復元したもの。幾何学模様に刈り込まれた植栽や色鮮やかな花壇は、英国バロック庭園の最高傑作ともいわれています。
宮殿を背景に広がる左右対称の景観は、まるで歴史映画のワンシーンのようです。実際、これまでも映画やTV番組の撮影に使われています。
キッチン・ガーデン(Kitchen Garden)
今も果物や野菜が栽培されている実用的な庭園で、英国の伝統的な家庭菜園文化を感じられるエリアです。
季節によって収穫される作物が変わり、筆者が訪ねた日はイチジクやヘリテージトマトを見ることができました。また、たくさんの種類のエキナセアが色鮮やかでした。
グレート・ヴァイン(Great Vine)
1768年に植えられた世界最大級のブドウの木も見逃せません。
現在でも毎年実をつけ、秋には見事な房が枝いっぱいに実ります。250年以上生き続ける植物の生命力には驚かされます。
ノット・ガーデン(Knot Garden)
宮殿のレンガ造りの建物に寄り添うように広がるノット・ガーデンは、低く刈り込まれたボックス(ツゲ)の生垣が、まるで刺繍やケルト模様のような複雑な幾何学模様を描く美しい庭園です。
16世紀のチューダー朝時代に流行した「結び目模様(ノット)」の庭園様式を現代に再現したもので、宮殿の窓など高い位置から眺めると、その精巧なデザインがより一層際立ちます。季節ごとに植え替えられる草花が模様に彩りを添え、宮殿の赤レンガとのコントラストは写真映えする人気スポットのひとつです。
ポンド・ガーデン(Pond Garden)
現在、美しいサンケン・ガーデンとして親しまれているポンド・ガーデンは、もともとは1530年代にヘンリー8世が造らせた魚の生簀でした。当時は宮殿の食卓に供するコイやパイクなどの淡水魚を育てるための池で、王室の厨房を支える実用的な役割を担っていました。
その後、1690年代になると、共同統治者ウィリアム3世の妃メアリー2世の命によって大きく姿を変えます。池は排水され、地面を一段低くしたサンケン・ガーデンへと造り替えられ、王妃が世界各地から集めた珍しい植物や柑橘類を飾るための優雅な庭園となりました。冬には近くに設けられた当時としては画期的な温室で植物が保護され、夏になると庭園いっぱいに並べられていたと伝えられています。
ウィルダネス庭園(The Wilderness)
庭園散策の締めくくりには、ぜひウィルダネスへ足を延ばしてみてください。
宮殿の華やかな幾何学庭園とは対照的に、木立に囲まれた自然豊かなエリアで、小鳥のさえずりだけが響く静かな空間です。木漏れ日の中を歩いていると、ロンドン近郊にいることを忘れてしまうほど。
世界最古の生垣迷路(Hampton Court Maze)
ウィルダネスのすぐ隣にあるのが、ハンプトンコート宮殿を代表する人気スポット、迷路です。
1690年代、ウィリアム3世の時代に造られたこの迷路は、現存する世界最古級の生垣迷路として知られています。高さ約2メートルのイチイの生垣に囲まれ、全長約800メートルにも及ぶ通路は、一見シンプルに見えて実際には何度も行き止まりに出会います。
「右手の法則なら必ずゴールできる」と思って挑戦しても、意外なところで同じ場所へ戻ってしまうこともしばしば。大人でも20~30分ほど夢中になり、家族連れはもちろん、一人旅でも思わず童心に返ってしまう人気アトラクションです。
迷路は宮殿チケットで入場でき、通常は10:00~16:00頃まで公開されています(季節やイベントによる変更あり)。庭園だけを歩いて帰るのは少しもったいないので、ぜひ最後に迷路へ挑戦してみてください。出口にたどり着いた瞬間の達成感は、ハンプトンコート宮殿ならではの忘れられない思い出になるでしょう。
花だけではない、英国らしい風景
ハンプトンコート宮殿の魅力は、華やかな花壇だけではありません。
園内には芝生の広場や樹齢数百年の木々、静かな小道が続き、まるで英国の田園風景を歩いているような気分になります。
春は水仙、初夏にはバラ、夏は色鮮やかな宿根草、秋には黄金色の落ち葉、冬には霜が降りた幻想的な庭園と、一年を通して違った景色に出会えます。
ベンチに腰掛けて紅茶を飲みながら景色を眺めるだけでも、贅沢な時間が流れます。
500年の歴史を刻んできた庭園は、ただ美しいだけではなく、その時代ごとの王や王妃たちの暮らしや美意識を今に伝えてくれます。ロンドンから気軽に訪れることができるハンプトンコート宮殿は、英国庭園の魅力を一日かけて満喫できる、とっておきの場所です。
アクセス・開園時間・入場料金
ハンプトンコート宮殿へは、ロンドン・ウォータールー駅からサウス・ウェスタン鉄道で約40分。ハンプトンコート駅を降りると、目の前には美しいテムズ川と宮殿が広がります。橋を渡って徒歩約5分という分かりやすい立地も魅力です。
現在の通常開園時間は10:00~17:30(最終入場16:30)。季節やイベントによって変更される場合があるため、訪問前には公式サイトで最新情報を確認することをおすすめします。
現在のところ入場料は大人£29(オフピーク)~£32(ピーク)で、庭園・迷路・宮殿の公開エリアが含まれています。
ウェブサイト:https://www.hrp.org.uk/hampton-court-palace/
何度も英国を訪れるならHistoric Royal Palacesメンバーシップがおすすめ
イギリス好きの方には、ぜひ知っておきたいお得な制度があります。
それがHistoric Royal Palaces(HRP)メンバーシップです。
年間会員になると、ハンプトンコート宮殿へ何度でも入場できるだけでなく、
- ロンドン塔
- ケンジントン宮殿
- バンケティング・ハウス
- キュー宮殿
- ヒルズボロ城(北アイルランド)
などHistoric Royal Palacesが管理する宮殿へも追加料金なしで入場できます。
さらにショップやカフェの割引、会員限定イベントなどの特典もあり、ロンドン旅行で2か所以上訪れる予定なら、通常チケットを購入するよりお得になるケースも少なくありません。会員料金はこのコラムを執筆している時点では年間£65からとなっています。ご興味のある方はウェブサイトで確認してください。
ウェブサイト:https://www.hrp.org.uk/membership/